ブックレビュー ーサリエルの命題ー

今回は、楡周平さんの小説「サリエルの命題」について書いてみます。

 

同作品か出版されたのは2019年で、まだ現在のように新型コロナが広まっていない時です。

まるで予見していたようだとも言えますが、そうではなく、いつかはこうしたパンデミックは来るものだった、という捉え方が正鵠を得ている、ということなのでしょう。

綿密な取材に基づく新型のウィルスについての詳細な知見は、不安を煽るばかりのニュースや専門家でないコメンテーターの意見やまとめよりもずっとわかりやすく信頼できそうです。

 

 ともあれ、新型コロナウィルスに限らず人に感染する可能性のある強毒性のインフルエンザはいつ発生してもおかしくない状況のようです。

 

 この小説を題材にして問われているのはもう一つ。「命の選択をどうするのか?」と言う事です。ワクチンなど治療薬の生産能力や貯蔵量が限られている中で、優先順位をどのようにつけるのか?

 

政治や医療問題、社会保障制度のあり方、考え方も大きく絡んでくるような考えさせれる一冊です。

 少子化は正しい。問題は長寿だ。」

 

 小説の中でのとある主人公の発言。

 私は少し違う意見を持っています。

 

 健康寿命が続く限りにおいては、無理のないできる範囲の時間と労力で働いて社会に貢献すれば良いのではないかと思うのです。

 

年金は受給するにしても、税金を納めるくらいに働けば、支えてもらう側でなく、支える側になるのではないでしょうか?

 

また、そんな形でつながりをゆるく持っておけば、認知症にもなりにくいのかな?とも思います。長い人生経験での知恵が伝承される機会もあるのではないかと思っています。

 

このことについては、自分自身もいずれ高齢者になるにも関わらず、じっくりと考えたことはありません。それゆえ、考えが浅いところもあろうかとは思います。私は命続く限り、働いていこうと思っています。

 

自分のためにしか考えていないのですが、結局それがまわりまわって社会の役に立つし、若い人のお荷物にならず生きることになるのではないでしょうか?

 

小説の中で、若手の政治家(といっても40代)が重鎮の政治家に対して、ワクチンの優先順位を発表し、そのことに対して問題提起をするべきだと訴えるシーンがあります。

 

「沈没する客船から、どう言う順番で救命ボートに乗せるかって話と同じじゃないかと思うんです。」

「女性の優先順位が高いのは、子供を産み育てるのに必要だから、子供は将来の社会を背負っていく存在だからでしょう。」

 

小説の中でも語らせていますが、今の時代、公の場で発言したら、色々たいへんな物議を醸すことになりそうな言葉ですが。

 

そんなこんなで、考えたり向き合ったりすることから逃げてきたことに対して考えさせられる材料がつまっているように感じます。

 

もしかしたら、この小説に関しては違う切り口で改めてブックレビューをするかもしれませんが、考えがいのある小説でした。